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高松高等裁判所 昭和24年(控)1109号 判決

控訴人 被告人 湯浅実 外一名

弁護人 矢野三郎

検察官 田中泰仁関与

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人矢野三郎の控訴趣意は別紙記載の通りである。

控訴趣意第一点について

原判決は被告人湯浅実に対し精米の換価代金二千六百四十八円四十五銭の沒収を科しているところ、法律の適用において刑法第十九条を掲げているのみであつて同条第一項の第何号に該当するかを示していないことは所論の通りである。しかし沒収に関する判決主文と判決の認定事実及び挙示の証拠とを対照して当該沒収の目的物が刑法第十九条第一項第何号に該当するものであるか自ら明瞭である場合には法律の適用において必ずしも右第何号に該当するかを示さなくても判決理由不備であるとはいえない。本件沒収の目的物は被告人湯浅が不法輸送した精米(原判示第一の事実)の換価代金であつて同条第一項第一号に所謂「犯罪行為を組成したる物」に該当すること原判決全体より推して明かであるから、沒収につき単に刑法第十九条とのみ記した原判決を違法であるとはいえず、論旨は採用できない。

同第二点について

本件没収の目的物は被告人湯浅が任意に提出した精米を換価した代金であることは所論の通りであるけれども、これが没収に際し判決において刑法第十九条の外に右換価についての根拠条文を示すことは必要でない。従て論旨は理由がない。

同第三点について

論旨は被告人井竿一義に対する原判決の科刑は重きに失すると謂うのである。仍て本件記録を精査し論旨援用の諸点を斟酌して考察するに、被告人井竿は相被告人湯浅の依頼により本件精米を輸送したものであることは記録上窺い得るけれども同被告人は既に物価統制令違反罪により罰金千五百円、食糧管理法違反罪により罰金四千五百円の各前科のあること記録上明かであり、その他諸般の情状を考量すれば原審が本件につき同被告人に対し罰金一万二千円を科したのはその量刑相当であるといわなければならない。相被告人湯浅に対する科刑と比較するも何等権衝を失して居らず論旨は理由がない。

その他職権で調査するも原判決には刑事訴訟法第三百七十七条乃至第三百八十三条に規定する事由が認められないから同法第三百九十六条により本件各控訴はいずれもこれを棄却すべきものとする。

仍て主文のとおり判決する。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

被告人両名の弁護人矢野三郎の控訴趣意

第一、原判決は被告人湯浅実に対する附加刑として、押収に係る精米五十二瓩五百瓦と二十八瓩との換価代金合計二千六百四十八円四十五錢を沒収して居る。然しその適条に於て単に刑法第十九条を掲げたのみであつて右は果して同法第一項の第一乃至第四号のいずれに該当するのか即ち本件犯罪との関係を判示してない。

第二、更に右沒収された物は精米二十八瓩と五十二瓩五百瓦との換価代金であるが、本件において押収(任意提出の領置)されたものは精米二十八瓩(証訂三号)と精米五十二瓩五百瓦(証第一号)とであつて換価代金二千六百余円なるものは捜査当局に於て刑事訴訟法により換価処分された結果のものである。さらば裁判所がこれを沒収するには刑法第十九条の外に刑事訴訟法第百二十二条か何か、その金額の因て来る所以を知るに足る法令の適用がなければならぬ。然るに原判決はこれを欠いている。

以上二点はいずれも判決の理由の一部が附せられてないことになる。理由なく附加刑は科せられない。

第三、記録によれば、被告人井竿一義は相被告湯浅実の頼みにより自己の計算によるのでなく単に機械的に本件米の輸送をしたのに過ぎない。そして其の量も半額に至らず回数も一回だ、さらば同人に同種の前科があるとしても相被告との権衡上相被告の罰金一万五千円に対する此の被告の罰金一万二千円は量刑重きに失する。

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